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社長のコラム しゃコラ



社長のコラム、通称“しゃコラ”
青空のむこう 2009/11/25

画像 (The Great Blue Yonder/Alex Shearer)

子供の頃、なぜあんなにも‘自分を取り巻く世界’は小さかったのだろうと思うことがある。そこには「自分対世界」という単純な構図がしっかりと根を張っていて、その世界から抜け出すことは、不可能に思えた。
子供の頃の私は、世間知らずで、かたくなで、そのくせ甘ったれていて、ちょっとしたことですぐに勘違いするお調子者。自分は他人より少しだけ特別だと思っていた。でも子供の頃って、誰でもそんなもんじゃないだろうか。

あの時、たったひとことでいいから、言えていたら・・・・。
「ありがとう」とか「ゴメンね」とか、今なら言えるのに、なぜあの時言えなかったのだろう。そんな後悔は誰にでもあるはずだ。そして、もしあの時言えなかった想いを今伝えることが出来たなら、どれだけ救われることか。

 『 青空のむこう (アレックス・シアラー/著,金原瑞人/訳)  求龍堂 』

この小説を読むと、子供の頃のあの世界が、今も変わらず、目の前に広がっているかのような錯覚を覚える。そこにはどこの世界にでも「あぁ、こんな人いる、いる」みたいな人物が、実に魅力的に描かれているのだ。ページをめくるたび、新緑のニオイを思いっきり吸い込むように、新鮮な空気が体に流れ込んでくる。それはまるでつむじ風が突然からだを通り抜けていくかのようだ。

「人はみんな、死んだらあとは楽になるだろうって思うらしい。だけど、絶対そんなことない」
物語は主人公のハリーのこんなつぶやきから始まっていく。ハリーは突然の交通事故で死んでしまった少年。そのハリーが死後行ったのが〈死者の国〉、つまりあの世。その入り口に着いて、まず最初にすることは、名前を登録することだった。それからここに来た者はいつか〈彼方の青い世界〉というところに行くらしい。だが、やり残したことがあるハリーは〈彼方の青い世界〉に向かうことが出来ない。だから、もう一度幽霊になって〈生者の国〉、つまりこの世に戻ってくる。あの時の、やり残したことを成就させるために・・・。
やり残したこととは、友達や家族にと゜うしても気持ちを伝えること。あの時言ったひどい言葉を後悔していることを、姉のエギーに謝りたい。ありったけの想いを込めて「ゴメンね」と伝えたい。でも、どうにかして気持ちを伝えたいのに、相手には自分の姿は見えないし、声も聞こえないのだ。いっしょにサッカーをすることも出来ないし、抱きしめることもできない。ハリーの想いは次第に強くなっていく。
すると、必死になって想いを伝えようとしているハリーに、やがて奇跡が起こる。

主人公ハリーの一人称な語り口調で綴られているのが特徴のファンタジー小説。ラストシーンなど、映画『ゴースト』の子供版とでも表現できる幽霊モノ。ベタなストーリーに冒険を絡め、コメディタッチで和ませて最後にしっかり泣かせる。宿敵ジェリーの作文をハリーが読むシーンの使い方なんかニクイなぁ。最後のページに綴られる素朴なハリーの気持ちには、もう戻れないんだという想いが溢れていて胸がしめつけられる。でもそんな切なさは一転、すがすがしい余韻に変わっていく。
こういう小説に引き込まれるのってホントくやしいけど、読み進めば結局我慢できなくなる。そういうふうに書かれているのが見え見えなだけに、まんまとハメられている自分がちょっぴり情けない!特に〈死者の国〉の描写には、作者の想像力の豊かさを感じる。死んだ後の世界を描いた小説のわりには暗くなく、ユーモアもきいていて、なんとも不思議な気分にさせられ、心がほっこりする作品だ。

ただ私は、‘幽霊’とか‘おばけ’といったようなモノの存在を、まったく信じていません(笑)


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