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社長のコラム しゃコラ



社長のコラム、通称“しゃコラ”
たかが水、されど水 2010/06/10

今月末をもってハウス食品が1983年から展開しているミネラルウォーター事業から撤退する。
「六甲のおいしい水」のブランドを引き受けるのは業界大手のアサヒ飲料だ。4月8日の突然の売却発表に驚いた人も多いはず。いや、一番驚いたのは、両社で働く社員かもしれない。

デフレ市場の中、スーパーなど小売業での乱売、シェア争奪戦、品質管理に伴うコストアップなど、ミネラルウォーター事業を取り巻く環境は大きく変化した。また、長引く不況の後遺症も大きく、「ブランド」に頼るだけでは生き残れないのだろう。まさに今流行りの“事業仕分け”された格好だ。でも、どの業界も再編や統合や撤退が当たり前の時代。プレス発表後もそれほどの混乱もなく、平静に受け止められているのも理解できる。

最近までニッポンでは「水と安全はタダ」という考えが常識でした。「六甲のおいしい水」の登場をきっかけとして、急速に「飲料水を買う」文化が出来上ったのです。売れ筋商品となったら、新規参入が相次ぐのが世の習い。それが価格崩壊を招き、消耗戦の末に乱売合戦から脱落し、ハウス食品は撤退を余儀なくされました。だが、ニッポンのミネラルウォーターの草分けという意味で、ハウス食品の果たした役割は大きいと思う。

ミネラルウォーターが、緑茶系飲料を越えて飲料の中で一番売れるカテゴリーになったのが2007年。今では暮らしの中にミネラルウォーターは、着実に定着してきている。現在、世界で数千種類、日本国内にもおよそ500ブランドがある。やや伸び率が鈍化してきたとはいえ依然、ある程度の販売数量が見込まれるミネラルウォーター。水は「買って飲む時代」から「こだわって選ぶ時代」へと変化しています。それは一歩進んだ目的意識が広まってきている表れかもしれません。

私たちの暮らしに不可欠な存在である「水」。
だが私たちの暮らすニッポンとは違い、清潔な水はおろか、水の供給自体が十分でない地域が世界にはまだ多数存在するのです。不衛生な水とそれらが作り出す環境は、そこに暮らす人々の健康を脅かし、子どもを含めた死亡率の上昇を招き、人々を貧困状態に陥らせます。
そんな貧困状態にある発展途上国が世界には多数存在する中、ここニッポンでは清潔で安全な水が水道の蛇口をひねれば簡単に出てくるにも関わらず、誰もがお金を出してミネラルウォーターを買い求めます。そして、今では全国各地で「水道水離れ」が進み、「水」に対する認識が変わってきました。

これは情報化社会が招いたある種の「勘違い」というものではないでしょうか。
人間の体重の60%を占める水。生きるためには水分補給は不可欠だ。いい水が身体に良いとはいえ、いつから水道水は危険でミネラルウォーターが安全だと思い込むようになったのだろう。子供の頃には、喉が渇いたら平気で水道の水をカブガブ飲んでいたはずなのに・・・。
メーカーの販売促進や業界が発信する情報などにより、認知度の部分で随分かたよった「認識」がなされたようだ。いい水を飲むことが健康に良いというある種の「洗脳」めいたものが標準的な意識となり、何が危険かを正確に判断できないから、流れやすい方向に価値観が誘導された。その結果、水道水の安全性への不安から急速にミネラルウォーターの需要が広がったのだ。

現在ニッポンでは、さまざまな種類の飲み物が売られている。たくさんの飲料メーカーが、星の数ほどの新製品を次々に売り場へ投入してくる。だが、未来を代表する飲み物、それは以外にも「水」かもしれません。
我々人間の飲み物の歴史は、その原点に戻っていくのだろうか。「水」は貴重な天然資源であり、人々の生命と健康の基盤である。その単純で動かしがたい事実に、改めて目を向けなければならない時代が来ているのかもしれない。たかが水、されど水である。
ミネラルウォーターを販売する飲料メーカーは、そのことを念頭に置き、今後の販売戦略の見直しを急ぐ必要があると思う。


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