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社長のコラム しゃコラ



社長のコラム、通称“しゃコラ”
オー!ファーザー 2010/09/04

画像オー!ファーザー / 伊坂幸太郎

家は六人家族で大変なんだ。えっ、そんなの珍しくないって?まあ聞いてよ。母一人、子一人はいいとして、父親が四人もいるんだよ、それもアクの強いね・・・。(本文引用)

『 オー!ファーザー  (伊坂幸太郎/著) 新潮社  』

伊坂幸太郎の小説は、どこか変だ。この微妙に変わった小説は、彼にしか書けない。一見普通に見えるのだが、どうもそうではないらしい・・・、と読んでいるうちに気づく。気づいた時には、彼の術中にはまっているのだ。

主人公の由紀夫にはタイプの違う四人の父親がいる。由紀夫が誰の子かわからないので、みんなで一緒に暮らしているのだ。そして、みんな自分こそが本当の父親だと信じている。
そもそも父親が四人もいるという、この冒頭の設定がとっぴで、どこかすっとぼけた空気が読んでいて心地いい。
由紀夫が周りの人々に振り回されたり、厄介な事件に巻き込まれたりするたび、四人の父親が役割ごとに絡んでくる。個性派ぞろいで煩わしいけど、四人ともちゃんと「父親」している。
子育ては「電子レンジでチンする」わけにはいかず、時間と労力と財力を使うもの。形容のしようのない愛情で主人公を覆う四人の父親たちは、一筋縄ではいかない人生の中で、ささやかな喜びをほんのりとかみしめ合う。
ちょっと煩わしい関係だからこそ、人をいとおしく思ったりする。特に親子なんてそんなもんかもしれない。

「ワケあり家族のドタバタ人情喜劇」というか、一応家族小説の体裁をとっている。でも彼が書きたかったのは家族ではない。
つまり、彼はこの小説の中で、家族の個性を描きたいわけでも、家族という理想の共同体を取り出したいわけでもない。彼の目指したものとは、小説家としての実験的な小説だ。

今の時代に、実験的な小説を書いている人はどれくらいいるのだろう。世の中の動きや話題のトピックスとは無関係な場所(設定)で、自分の信じる小説を書くことは、かつてないくらい難しくなっているのかもしれない。ならばと、井坂幸太郎は考えたに違いないのだ。家族小説の枠の中で、まったく家族小説らしくない家族小説を書いてみてはどうかと・・・。
その試みは成功していると思う。
こんな作風は目立ちにくいけど、素晴らしく非凡で爽快だ。


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