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社長のコラム しゃコラ



社長のコラム、通称“しゃコラ”
Here Comes the Sun! 2012/06/08

     真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
    強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。
 ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
   カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
    父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
    しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた・・・。

このたった7行のあらすじから生まれた、家族の愛と憎しみと再生の異なるふたつの物語。人間の醜さや悲しさが、卓越した比喩を多用した独自の文体によってあぶり出されていく。

『 ヒア・カムズ・ザ・サン/有川 浩 (新潮社) 』

今まで生きてきて、「あの時、こっちを選択していなかったら今頃、まったく違う人生を歩んでいただろうなぁ。」なんて思ったことぐらい誰にだってあること。
どちらに進むか。右か左か。同じ人間でありながら、選択によってその後の人生がまったく違ったものになってしまったような物語。しかし、それはあくまでも仮定の話であって仮に別の選択をしたとして、果たしてその後の人生が変わっていたのだろうか?
その時点で選択した事は、どんなに変えようと思っても変わらないし、その時点で選択したその選択肢以外選んでいないのではないだろうか?
だが、もし別の選択をしたことによって、今、この目の前に広がる現実とは別なところに、もう一人の別の自分が存在しているとしたら・・・。

「この現実とは別の、もう1つの現実」

言い換えると、自分とは違う、’別の自分’が同時進行で存在している現実。そして、どっちの自分が本当の自分か?なんてことはない。両方とも、‘自分’なのだ。また、どっちの自分の方が優れているか?なんてこともない。両方とも、ただただ‘自分’なのである。
いわゆるパラレルワールド的なふたつの物語。パラレルワールドとは、ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)。おなじ設定からスタートしつつも豊かに姿を変えた二つの物語「ヒア・カムズ・ザ・サン」。

  思いがいびつにすれ違ってしまっているこの不思議な家族に、
    「余分な」気づきを持っている自分が立ち会ったことは、
          もしかすると運命かもしれない。
          カオルのために、彼らのために
           もしもこの力を使えるのなら、
   もう少し自分を前向きに認めることができるような気がした。
                              (本文引用)

うまく生きられない人間たちを生き生きと浮かび上がらせ、豊かな愛情を持って人生の困難さと面白さを伝えてくれる。人生なんて、ひとつのボタンを掛け違えただけで、全く違うものになってしまう、ということを突きつけられたような、なんとも奥行きのある物語である。
登場人物は同じでも、全く別の展開のふたつの物語が並行して収められていて、想像・創作のもつ幅広さと豊かな可能性に改めて思い至らせてくれる作品。


あなたなら、どちらの「ヒア・カムズ・ザ・サン」を選びますか?


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