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社長のコラム しゃコラ



社長のコラム、通称“しゃコラ”
夢売るふたり 2012/10/02

「夫婦」、その世にも不思議な運命共同体。

元々は他人だったのに、今は他人じゃない男女二人。理想の形なんかない。むしろ刻々と変化していくビミョウな関係・・・。そんな夫婦関係の本音と不条理をちょっぴりビターに描く松たか子と阿部サダヲ出演の映画、『夢売るふたり』。

営んでいた小料理屋を火事で失い、再出発のための資金集めが目的で次々と結婚詐欺に手を染めていく夫婦の物語。最初、この二人が夫婦でいいのかなぁと思っていたけど、次から次へとテンポよく物語が進むにつれて、これが見事にハマってくるから不思議だ。妻が犯行を考え、夫が実行する狂気の犯罪生活へと染まっていく過程に、一瞬たりとも気が抜けない。詐欺夫婦の奇妙さと同時に、満たされない女性たちの心を鋭く描く衝撃作だ。
中でも松たか子の体当たりの演技はパワフルで生々しく、見所のひとつとなっている。松たか子を妻役に抜擢した西川監督の眼力は、やはりすごいと思う。

原案・脚本・監督をこなす西川美和さん(広島市安佐南区出身)。

人間のこまやかな感情をすくい取り、日常の中の極限的な時間をリアルな言葉でつかみ取ることができる稀有なクリエーターだ。うち(会社)の役員の姪っ子さんという縁もあって、これまでの作品も全て鑑賞済み。今回も妻と八丁座で鑑賞しました。

人と人の結びつきは、深くてもろい。男女の関係も一緒。もちろんその逆でもあって、両者を等分したような微妙なバランスで人間同士の関係は成立している。
この映画は、そんな「関係」の中で生きている夫婦の本質を照らしながら、絶え間なく更新されていくさまざまな愛情の在り方を発見する。男と女というくくりすら解かれた場所から、本当の愛とは何かを深く問い掛けてくる。

結婚詐欺とはいえ、条件さえそろえば、恋愛のようなものは簡単に成立するかもしれないという、人の心の危うさも指摘されている気がした。
結婚詐欺にひっかかり、思いがけず恋愛のような関係へと倒れ込んでいく女性たち。でもそれは、日常の喪失を埋め合うだけの暗くさびしいつながりのようにも見える。
まるで、最初は目立たなかった浴室のカビやキッチンの水回りの変色が、いつの間にやら簡単には落とせない頑固な汚れに成長しているかのように・・・。

絶対に結び合うことはないと思える男女の展開に、意外にも納得できたのは、愛がさびしさという影によって支えられ、積み重ね補強されるものであるなら、彼女たちの関係には、そのふたつが皮肉にもそろっていたからだ。さらに、最後に待ち受けている結末のグロテスクさも、かなりのものである。
そして、日常を一皮めくった裏側に潜む狂気や、人生のあちこちに待ち受けている落とし穴の描写に、いつでも現実に起こり得るのではないかという迫真性も感じられる。
どこかで理想の人生設計から足を滑らせてしまった女性たちの姿にまつわる、一抹の物悲しさとともにいつまでも後を引く。

普通に生きてるとドラマティックな場面などそうそうないけど、映画なら何度でも味わえるものがある。それがこの映画では、男と女の互いの孤独への共感といういたわりのようなものだ。
さまざまな人物を映すように、角度によって異なる光を放つ「愛情」は、プリズムみたいなものかもしれない。その光の中でふっと肩の荷を下ろし、未来へのまなざしを強くする瞬間が、女性たちの生きる力としてちりばめられている点に注目したい。


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